今こそ見て! レトロホールのエントランス装飾

今こそ見て! レトロホールのエントランス装飾

こんにちは。偏愛パチンコライターの栄華です。

こちらは栃木県と東京都でパチンコホール「BBステーション」を経営する株式会社大善の採用サイトです。

 

今回は、ちょっと歴史のお勉強。

たくさんの写真をご覧いただく企画です。

 

テーマは

「パチンコホールのエントランス装飾」です。

 

「わからん。読むのやーめた」

とブラウザを閉じそうになった御方。

まずはエントランスの説明だけでも見て行ってください。 

 

エントランスとは?

玄関のことです。

マンションや商業ビルの出入り口付近のことをエントランスということがありますね。建物の中に入ったところの広い空間のことをエントランス・ホールと呼んだりします。

建物に入ってまず目にする所なので「どう見られたいか」という建物としてのコンセプトが現れる場所とも言えます。

 

エントランス・ホールのイメージ

 

パチンコ店のエントランス・ホールはどうでしょう。

普段通っているマイホを思い浮かべてみてください。

自動ドアがあって、風除室みたいなとこに玄関マットが敷いてあって、アルコール消毒液が置いてあって……その先は、どうだったっけ?

 

そんな方が多いのではないでしょうか。

現在新築されるホールの多くは外装も内装も昔と比べてシンプル化しており「ユーザーが長時間過ごしたくなる空間づくり」に重きが置かれるようになりました。ギラギラしたネオンサインに代表される見た目のインパクトよりも、広々とした台間や通路、椅子の座り心地の良さなど店内の快適さに目が向けられるようになったのです。それに伴いエントランス部分も、1990年代前半あたりまでとは趣が変わりました。

 

今と昔はどう違うのか。

 

昔は、こういう華やかなエントランス装飾が多かったんです。

 

ゴージャスで見映え抜群ですよね。

そして、懐かしさを感じる方も多いのではないでしょうか?

 

「昔のホールは派手でよかったなあ」

「あの頃に戻りたいなあ」

思わずノスタルジーに浸りたくなりますが、それは今回の趣旨ではありません。昔ながらのホールはとても魅力的ですが、最新鋭のホールも便利で居心地がよくて素晴らしい。どちらが良いかを比べても仕方がないと思います。

 

ただちょっと最近、以前にも増して危機感が募っているんです。

 

一時期は数多くのホールで見ることができたエントランス装飾。今となってはめっきり目にしなくなりました。主な理由は、ふたつあります。

 

  • 改装のときに撤去してしまった
  • エントランス装飾のあるホールが閉店してしまった

 

コロナ禍旧規則機の撤去により、未だ終わりが見えない閉店ラッシュ。歴史のある中・小規模ホールが力尽きると同時に、エントランス装飾もどんどん失われています。

 

でも今なら、探せばまだ見ることができます。

 

全てが過去の記憶になってしまう前に、エントランス装飾の歴史を紐解き、撮り集めた写真を通して今なお残るその姿を再認識する。それがこの記事の意図です。

 

 

娯楽産業協会の資料

エントランス装飾はいつ頃から流行したのでしょうか。それをうかがい知ることができる貴重な資料があります。

 

「最新遊技場カラー特選写真集」娯楽産業協会発行 1972年

 

1964年からパチンコ業界誌「娯楽産業」を発行している娯楽産業協会が、1972年に刊行した「最新遊技場 カラー特選写真集」です。

 

内容はタイトル通り、当時の最新のパチンコホールをカラー写真で紹介するというもの。外装はもちろん、遊技スペース、景品カウンター、照明器具、洗面所に至るまで、最新の内装や設備をオールカラーで見ることができます。

 

1972年当時営業していたホール。キッチュでレトロフューチャー感ムンムン。今はどこを探してもこんなホールはありません!

 

ところがですね、この本。

当時の最新ホールの内外装を網羅していながら、エントランス装飾について言及した箇所が見当たらないのです。

 

「エントランス部分の装飾」は当時すでに、いやそのずっと前から存在していました。1950年代半ばには現在の5倍以上の数のホールがあり、実に様々な規模・趣向でデザインされていたので、萌芽はもちろんあったでしょう。

 

「最新遊技場カラー特選写真集」(1972年)にもこのような写真が

 

ただ、数多くのホールがこぞって装飾に凝り、豪華さ・派手さを競うようになる「エントランス装飾の流行」は1970年代後半に始まったようなのです。

ここでもう一冊本を紹介します。

 

▲「大阪・ホール大写真集」娯楽産業協会発行 1979年

 

同じく娯楽産業協会による「大阪・ホール大写真集」。1979年の発行です。

この中に注目すべき記述が現れます。

 

「個性を主張する空間 フロント部」

 

と見出しがつけられた解説文です。長くないので全文引用します。

(「フロント部」は、私の言うエントランス部とほぼ同義です)

 

最近のホールデザインにおいては、スペースにゆとりのある郊外型ホールと、そうでない都心型ホールとでは、デザイン的にガラリと異なる場合がある。フロントの利用についても、郊外型ホールでは、ここに休憩コーナーを配するなど、新しい演出が見られ、それが従来のパチンコイメージを変えたホール空間を創出している。

 都心型ホールでは、フロントのスペースがどうしても狭くなる。そこからくる心理的圧迫感を、天井吹き抜け、天井部のミラーばりなど、デザインでカバーしている。また自動玉貸機の普及で、従来、フロント部におかれていたカウンターをなくするレイアウトも増えている。

 島飾り、照明、フロントウォールのデザイン処理(壁画、モザイク等)によってフロントにデザインの粋をあつめてホールの個性が主張されている。フロント部は将来、演出スペースとして活用の余地が残されているところである。(太字筆者)

娯楽産業協会「大阪・ホール大写真集」1979年より引用

「大阪・ホール大写真集」(1979年)に掲載されたエントランス装飾の写真

 

1979年ごろ、店内装飾における最新の演出スペースとして、エントランス部分が注目されていたことがうかがえます。

 

引用にもある通り、郊外店が増えてきたこともデザイン性を一新しました(パチンコホールにおける郊外店は、1973年頃から中部地方を中心に広がっていったと言われています)。

 

1979年当時営業していた郊外型ホール

 

郊外型ホール:広いエントランス部を有し、休憩スペースなどを配置

都市型ホール:エントランス部の圧迫感を解消するため吹き抜け・鏡張りの天井を採用

双方共通:島飾り、照明、フロントウォール(※後述)のデザインに工夫を凝らす

1970年代後半、こういったエントランス装飾のトレンドが花咲き、1980年代に入るとその傾向はさらに加速します。「大阪・ホール大写真集」の3年後、1982年に刊行された「最新遊技場特選写真集」の中の写真をご覧ください。

 

▲娯楽産業協会「最新遊技場特選写真集」(1982年)より。79年よりもエントランス部をフィーチャーした写真が各段に増え、いっそう華やかさが増したことがわかります。

 

 

エントランス装飾はどこへ行ったのか

1990年代後半~2000年代に入ると、新しくオープンするホールに80年代のような華美なエントランスが設けられることはほぼなくなりました。では、それまでに作られたものはどうなったのでしょうか。

 

前述の通り、一部はリニューアルオープンの際に撤去され、一部はホールの閉店→解体によって失われました。しかし、それで根絶やしになったわけではありません。

 

ここからは、私が全国のホールで撮り集めた写真をお目にかけます。

エントランス装飾はつい最近まで残っていたし、わずかながら今もまだ見ることができます。そのことを知って頂くため、なるべく新しい写真を掲載したいと思います(2016年~2022年)。

 

 

すでに閉店したホール

まずは、撮影当時は営業していたけれど現在は閉店したホールの写真から。

 

①ホールH(東海地方・2016年撮影)

▲駅から徒歩10秒の好立地で50年以上営業。設置台数は約300台。近隣に複数のライバル店がある競争状態の中、入店時に圧迫感を感じさせないよう鏡張りの天井が採用され、デコラティブな照明で豪華さを演出。2020年に閉店し、現在は解体されました。

 

 

②A会館(四国地方・2016年撮影)

▲ホールのすぐ背後が海だからか、どことなくリゾートっぽい雰囲気。1983年創業。晩年はベニヤが目立っていましたが、多いときで約230台設置されていました。

 

▲このタイプの照明(透明なシェードのランプ+周囲に四角く配された蛍光灯)はかなり流行したらしく、地域を問わず複数のホールで確認。

 

▲2017年撮影のホール全景。閉店は2018年。内装はすぐに解体され、現在は重機会社の倉庫になっています。

 

 

③ホールJ(東海地方・2018年撮影)

▲設置台数約350台の郊外型店舗。点滅するネオン管が見せる光のショーと、フロントウォールを使った夜景の演出が秀逸でした。

 

▲これがフロントウォール。エントランス部の天井と垂直にステンドパネル(ステンドグラス風のイラストが描かれたパネルのこと)などの装飾が配されているもの。内側に照明が仕込まれていて、夜になるとガラス越しに店の外からも絵を眺めることができました。

 

▲店舗外側から見たフロントウォール。個人的に「夜景の美しいホール」として東海地区イチオシでしたが、2020年にコロナ禍の影響で閉店。

 

 

④ホールA(九州地方・2019年撮影)

▲創業は1980年代後半。設置台数は約150台。天井が高く開放感のあるエントランスが印象的。

 

▲天井には大きなステンドパネルが嵌め込まれており、休憩用のベンチから見上げて楽しめる趣向。ステンドパネルは、天井画やフロントウォール、島飾りにもよく用いられました。このホールは2020年に閉業しています。

 

 

現在も営業しているホール

⑤ホールS(関東地方・2021年撮影)

▲パチンコ店として創業したのは1990年ごろで、現在の設置台数は約190台。常連客が和気あいあいと集う癒し系ホール。外装はリニューアルを経ていますが、エントランス部は創業時から変わらないとのこと。鏡張りの天井や壁に照明が写り込み、星空のような奥行きを感じさせます。

 

▲流行したタイプの照明。縦・横に連結して使用できるのが特長。設置店は現在も散見されますが、通電しなかったり電球を外しているホールも多いので、これだけの数がフル点灯しているところを見られるのは貴重です。

 

 

⑥ホールK(関西地方・2020年撮影)

▲時折SNSに写真が上がっては多くのインプレッションを獲得する夜景。観光客の往来も多い繁華街にあるのでパチンコを打たない人々からの認知度も高め。現在の設置台数は約350台。

 

▲日が落ちると浮かび上がり、幻想的に明滅しはじめるネオン。思わず足を止めて見とれてしまうほどの美しさです。

 

 

⑦ホールS(東北地方・2022年撮影)

▲1980年代の中ごろに創業。現在の設置台数は約190台。半円型のガラス窓の奥にエントランス装飾が。

 

▲妖精のような人物の横顔があしらわれたフロントウォール。丸型蛍光灯を使った照明も個性的。ただし現在は点灯しておらず、通電可能かどうかも不明とのこと。それでも現役店にこの規模の装飾が残っているのは驚きです。

 

 

廃業店舗

⑧元ホールJ(東海地方・2017年撮影)

▲1980年代の前半~2000年代後半まで営業。設置台数は約170台。閉店後は生花店の作業場として使用されており、撮影時は島設備以外の内装が完璧に近い状態で残っていました。フロントウォールの保存状態も良好。

 

▲遠目には繊細なステンドパネルですが、アップにしてみると人物の描写がかなり雑。それもまたご愛嬌ですね。

 

 

⑨元K会館(関西地方・2016年撮影)

▲自動車整備ショップとして余生を送る元パチンコ店の建物、の裏側。

 

▲撮影時、建物正面の看板は外されていましたが、裏側の看板には「パチンコ」の文字を読み取ることができました。1965年ごろ〜2000年ごろまで営業。設置台数は多い時期で約190台。

 

▲自動車整備の作業場になっている店内。撮影時はエントランス装飾が残っていました。この和テイストの照明器具は、⑧のホールJにも全く同じものがあり、同時期に設置された可能性があります(80年代前半?)。

 

 

リサイクルショップ転用

⑩パチンコ店→リサイクルショップに転生した物件

▲エントランス装飾の意外な鑑賞場所として「リサイクルショップ」を挙げます。もちろんリサイクルショップならどこでもいいわけではなく、元パチンコホールの建物を転用した店舗に限ります。ご覧のように、外装の残像濃度が高い物件は期待大。

 

▲その多くに天井装飾が残っており、照明器具は点灯することも。掘り出し物とともにパチンコ店の痕跡を見つけ出す楽しみは、パチンコファンだけの特権かもしれません。

 

 

最後に

記事のテーマを「エントランス装飾」に絞った理由を書いて終えます。例えば「内装全般」にしたほうが偏りすぎず、読みやすい記事になったのではないかと私自身も思います。

 

でも、エントランス装飾が、70年代・80年代のパチンコ店で果たした役割をリアルに感じて頂くためにはテーマを限局したほうがよいと考えました。

 

エントランス装飾の役割とは、非日常への入口を彩ることです。

 

露店からはじまり、駅前や商店街の小規模店を経ていつしか「大衆娯楽」と呼ばれ、巨大産業として成長したパチンコ。客がホールに求めるもの、ホールが目指すもの、そして社会がパチンコ店に課す制限などがホールのありようを変化させてきました。

 

ただいつの時代も、パチンコ店が日常生活では味わえない欲求を満たす場所であったことに変わりはありません。エントランスは非日常への入口なのです。70年代・80年代のパチンコ店が夢見た非日常感を、できるだけ詳細に感じて頂きたいと思いました。

 

「実物を目の当たりにしたい」

もしそう感じて頂けたなら本望です。可能ならぜひ旅へお出かけください。エントランス装飾を旅の目的として提案することもこの記事の目的のひとつです。

 

 

<資料協力>

株式会社娯楽産業協会

 

<参考文献>

娯楽産業協会『最新遊技場カラー特選写真集』1972年

娯楽産業協会『大阪・ホール大写真集』1979年

娯楽産業協会『最新遊技場特選写真集』1982年

娯楽産業協会『全国遊技場名鑑 東日本編・西日本編』1969年~2008年

遊技通信社 『遊技通信で見るパチンコ業界の60年』2011年

栄華「あなたの知らないパチンコホール設計の世界」2019年(ガイドワークス『パチンコ必勝ガイド極上MIX HYPER vol.5』)

 

 

 

ライター紹介:栄華

パチンコライター。全国2800ヶ所以上のパチンコ店を探訪し写真撮影を行うほか、パチンコ書籍やパチンコ玩具等の蒐集など周辺文化の探究に軸足を置いた活動を行う。パチテレ!「パチンコロックンロールDX」レギュラー出演。パチンコ必勝ガイドにて「栄華の旅がたり」連載中。著著「八画文化会館VOL.7 ~I ♡ PACHINKO HALL パチンコホールが大好き!!~」が好評発売中。 偏愛パチンコバンド「テンゴ」で作詞とボーカルを担当。