パチンコの「パ」の話をしよう ~前編~
パチンコ店のネオン看板は「パ」に限って切れているのか?

パチンコの「パ」の話をしよう ~前編~

こんにちは。偏愛パチンコライターの栄華です。

このサイトは、栃木県と東京都でパチンコホール「BBステーション」を経営する株式会社大善の「採用サイト」でございます。

 

今回と次回は、対談企画をお届けします。

 

去る2020年9月12日、YouTubeにてあるトークライブが配信されました。これは私(栄華)と、ブックデザイナーの松村大輔さんが、パチンコの「あるもの」について語り合うという内容です。

 

あるものとは、

パチンコ店の「文字」です。

 

私は以前、本サイトにパチンコ店のネオンサインについてこのような文章を書きました。

→「パチンコ」のネオンはなぜ赤いのか

 

そう、私は「パチンコ」とカタカナで表記された看板の愛好家。全国のホールを駆けめぐり、「パチンコ」をカメラで捕獲するハンターです。

 

そして対談相手の松村大輔さんも、全国津々浦々を訪ね歩き、町々の文字を集めていらっしゃるスペシャリストです。文字蒐集という共通項を通じてご縁ができ、松村さんが主催する「文字の話をしよう」というシリーズ配信企画にお声がけ頂いたのです(たいへん光栄でした)。

 

松村さんの著書 まちの文字図鑑 「よきかなひらがな」「ヨキカナカタカナ」(ともに大福書林)※すごくいい本

 

配信は、とても楽しく珍しく充実した内容となりました。ただ、白熱しすぎて2時間半もの長時間に及んでしまったので、冗長になってしまったところや伝えきれなかった部分を補ってまとめてみたいと思ったのです。

 

今回は前編。パチンコ店の看板にまつわるあの都市伝説に迫ります。

 

 

 

パチンコ店のネオン看板は「パ」に限って切れているのか?

 

<話す人>

松村大輔(のどか)さん

ブックデザイナー。著書に「まちの文字図鑑」シリーズ。1990年代からのパチンコユーザー。好きだった台は「バレリーナ」(平和・1991年)、「たぬ吉くん2」(京楽・1992年)、「CR新世紀エヴァンゲリオンSF」(ビスティ・2004年)、「CR中森明菜・歌姫伝説」(Daiichi・2006年)など。

栄華(わたし)

パチンコと、パチンコ店の建物に偏愛を捧げるフリーライター。今の気分で打ちたい名機は「セイヤ」(三星・1988年)、「CRブラボーファイブFJ」(平和・2003年)、「CRAサンダーバードウィングD」(藤商事・2007年)。今年リリースのベスト機種は今のところ「PAスーパー海物語IN地中海SBA」(三洋)。

(※ウェブサイトに掲載するにあたり、意図がより伝わるよう配信時と言い回しを変えたり、内容を割愛するなどしております)

 

 

半濁点のデザインが重要

 

松村さん(以下松村):本日はよろしくお願いします。まず最初のテーマは「パチンコ店のネオン看板は『パ』に限って切れているのか」 という話ですね。

 

栄華:はい。このテーマについて話すにあたって予備知識として知っておいて頂きたいのは、2018年に某出版社の週刊誌「S」のウェブサイトに掲載された「パチンコ店のネオン看板はなぜ〝パ〟だけが切れるのか? その理由がついに判明」 という記事のことです。

 

松村:はいはい。読みました。

 

栄華:記事の内容を要約すると、 パの半濁点(マル)はネオン管を加工する際に、ぐにゃっと強く曲げるから、ガラス管に薄い部分ができてしまい、割れやすいと。で、半濁点が破損すると「ハ」の通電にも影響が出て「パ」全体が消えてしまう、って言うんですね。

 

松村:うーん……。

 

 

栄華:私はこの記事を読んだ瞬間「これはヤバい」と思いました。大手出版社のウェブサイトなので影響力が大きくて、2018年に掲載されたんですけど今も読めるわけですよ。この記事が出て以来、「パチンコの『パ』のネオンってどうして切れやすいのか知ってる?」みたいな話題をトリビア的に話す人が増えたんですが、私は「それは違う!」と思ってるんです。

 

松村:単純に、下ネタとして「パが切れてると楽しい」っていうのがベースにあって、じゃあなぜ切れるのかという理由を説いた記事なんですよね。ただ栄華さん的には「果たして本当にそうだろうか?」と。

 

栄華:はい。それについてお話したいです。まず、この写真を見てください。

 

 

栄華:半濁点の部分が、確かにグイッと強く曲げられているようには見えるんですよね。 でも、 半濁点の左側、ハの2画目も強引に曲げられていますよね。

 

 

松村:もっと鋭角に曲がってますね。

 

栄華: 立体的というか、奥側に向かって曲げてる、言えばいいのかな。

 

松村: うんうん、そういう曲げ方をするんですよね、 ネオン管って。

 

栄華:あとは、「チ」の 1画目の左下の部分も、強く曲げられて完全に細く潰れてるのが分かりますよね。半濁点の曲げ方より負担がかかってるんじゃないかと思うんですが…。

 

 

松村:これらの角の方が鋭角だから、見た目で薄くなってるのがわかっちゃいますね。

 

栄華:ですよね。大手出版社の記事は、ネオンサイン制作業者さんに取材をして書かれたようなので、「半濁点だけに過度な負担がかかって割れやすい」という説も嘘ではないのでしょう。でもその説を尊重したとしても、なぜ半濁点だけではなくパ全体が消えてしまうのかという疑問は残ります。

 

松村:なるほど。

 

栄華:ネオン管がどこか一箇所割れてしまうと、そこから水が入るなどして周囲のネオン管も破損してしまうことが確かにあるようなんですが、それが「パ」1文字単位でクリアに切れる理由と言っていいのか……。

 

松村:周囲のネオン管と言うなら「チ」も近いしね。 

 

栄華:そうなんですよ。さらに、この写真も見てください。

 

 

栄華:この看板の半濁点は、ネオン管を2本使ってませんか?

 

松村:ああ、2本ですね。要はまあ、半濁点が切れやすいかどうかはデザインによるってことになりますかね。

 

栄華:そう! そう思うんです。松村さんは、実際ネオン管曲げを経験されたことがおありですよね。経験上、この問題についてどう思われますか?

 

松村:「ヨキカナカタカナ」という本を作った時に、版元の大福書林さんと一緒に「シマダネオン」さんという工房に行ってネオン曲げ体験をしまして、その様子は本に掲載されてるんですが、工程を少し紹介すると、ガラス工芸品なんかを作る時と似ていて、熱で溶かしたガラス管を口で吹いて加工するんですね。

 

栄華:それ知った時は驚きました。素朴な手法で作られてるんですね。

 

松村:一本一本職人さんが、吹きながら管をバーナーに当てて曲げるんですけど、素人がやると曲げた部分の角が潰れちゃうんですよ。こうなると、点くことは点くんだけど劣化の原因になると聞いたように思います。

 

松村さんが加工したネオン管。角の部分がつぶれてしまっている

 

栄華:強く曲げた部分が劣化しやすいというのは本当なんですね?

 

松村:そうですね。故障の原因になりうると。でね、この写真を見てください。

 

 

 

栄華:おお! ここはネオンの美しい某名店!

 

松村:栄華さんのTwitter のリツイートかなんかでこの店を知って駆けつけてみたら、すごいネオンサインがあって。かなり大きいサイズの漢字のネオンなんですが、たとえば「壽」の4画目の角の部分を見てください。かなり平べったくなってるんですよ。

 

栄華:すごいですね。きしめんみたい。

 

きしめんっぽい部分

 

松村:これは、僕がネオン曲げ体験でやったミスのように、あんまり上手くない人が吹いたからこうなったのか、実際のところは不明です。(※文末に追記あり) でも、このホールには別な箇所にも店名のネオンサインがあって、同じ部分をよく見るとやはり平べったくなってるんです。何が言いたいかというと「薄くせざるを得ない部分」っていうのがネオン管にはどうしてもあるってことなんです。

 

栄華:その部分の負担をどう減らすかは職人さんの腕の見せ所ってことですかね。

 

松村:そう。だから、最初の話に戻ると、大手出版社の「半濁点は負担がかかりやすい」っていう書き方は乱暴だったんじゃないかなと。例えばこの「パ」を見てください。

 

 

松村:僕はパチンコ店に限っての話だと思ってるんですけど、こういう縦長の半濁点が多いですよね。

 

栄華:はいはいはい! 確かにそうですね。

 

松村:ネオン管で小さいマル(半濁点)を作るのは負担がかかるからこそ、こういうデザインか多いんじゃないかなあと。

 

栄華:なるほど。負担を避けるためかもしれないですね。

 

松村:だから、破損しやすいかどうかは「デザインによる」としか言えないと思います。大手出版社の記事は、もうちょっとそのへんをフォローして欲しかったですね。

 

 

 

なぜ「切れやすい」説に反駁するのか

 

栄華:もうひとつ、別な視点から「パ」が切れやすい説に疑問を呈したいと思います。先ほどの出版社の記事が出るよりかなり前の話なんですが、私はTwitterにこのような投稿をしました。

 

 

栄華:パが切れてるネオンを見て喜ぶって、馬鹿馬鹿しいんですけど、できることなら私自身もやっぱり見たいんですよ。

 

松村:(笑)

 

栄華:でも、なかなか見られるもんじゃないんです。だいたいはツイートの写真みたいに、違う文字が切れてちゃってるんですね。このツイートにはすごい反響がありまして、「バズった」というほどでもないんですが、このぐらいのインプレッションがありました。

 

 

栄華:人々がいかにパ切れのネオンに興味を抱いているかを実感した出来事でしたね。「皆さんお好きね~」って感じ。だから、大手出版社の記事にもやっぱりみんな食いついてしまうんですよ。

 

松村:確かに。

 

栄華:で、自分のツイートの反響に驚いた私は「これは一体何が起こってるんだろう」と、せっかくの機会なので寄せられた反応を全部調べて分類してみたんですよ。全部で何件の反応があったか忘れてしまったんですが(※改めて確認したところ150件でした)、内容別に分けるとこんな感じでした。

 

<上位の反応の具体的内容>

①ネオンの切れ方に反応

「パンコにじわる」「パナノコ可愛くていいなあ」「ンが強いですね」など、残った文字の語感の面白さや切れ方の傾向に関するもの。

②バイアスに言及

「パが切れてると印象に残りやすいからだろうな」「デジタル時計をふと見るとゾロ目のことが多いのと一緒ですよね」など、パ切れが多いという説に対し認識の偏りを指摘したもの。

③パ切れの思い出

「20年前に宮城県仙台市の某ホールがパ切れでした」「蒲郡市で2000年頃に見ました」「昔地元のホールのパが切れていて、そのネオンの点滅パターンは…(略)」など、自身が目撃したパ切れ看板を詳細に述べたもの。

栄華:皆さんのこうした反応(②・③)から、いかに人間の記憶にパ切れが強く刻み込まれるかを実感しましたね。

 

松村:おもしろい。

 

栄華:で、私がこんなツイートをした理由なんですけど、ある誤解を解きたかったからなんです。パ切れの看板が取り沙汰されるたび、必ず「故意に切ってるんじゃないか」って人が現れるんですよ。実際私のツイートにも「これ絶対わざとやってるだろ」「確信犯ですね」みたいなコメントが来まして、私はそれを強く否定したいんです。松村さんも、わざとやってるって思います?

 

松村:思わない(笑)

 

栄華:ですよね? この写真を見てください。

 

 

栄華:貴重なパ切れの写真です。ハの2画目がうっすら残ってるようにも見えますが。

 

松村:ああ、こういう状態になることありますね。

 

栄華:友人が関西地方で見つけて撮ってくれた写真なんですが、「これは自分の目で見なきゃ!」と翌週現場に行ったんです。そしたらね、修理されてました。

 

松村:やっぱり……。

 

栄華:パが切れると、急いで修理するというホールも多いみたいです。実際、パチンコ店のネオンサインを専門に作っておられるネオン業者さんにお聞きしたんですが、パが切れるとオーナーからすぐ連絡が来ると仰ってました。

 

松村:ちょっと待ってください。今「パチンコ店専門のネオン業者さん」って言いました?

 

栄華:ええ、いらっしゃいます。看板屋さんというより外装業者さんと言えばいいんですかね。東海地区で60年以上パチンコ店の電飾を中心に手がけておられる業者さんを取材させていただいたことがあって、社長さんが仰ってました。パが切れると「チンコになっとるで早よ直しに来い」って即電話がかかってきたと。

 

松村:まあ、お店の品位にも関わりますからね……。

 

栄華:そうですよね。もう1枚パ切れの写真があります。

 

 

栄華:北海道の某ホールなんですが、これも私が自力で発見したものではなくて、知人が「切れてるホールがある」と教えてくれたんです。で、その店は「パが切れてて恥ずかしいから、普段は点灯してない」って言うんです。

 

松村:パが切れるって、そこまでの事件なんだ、店側にとっては。

 

栄華:はい。そこを無理にお願いして、この日だけ特別に点灯して頂いたのがこの写真です。

 

松村:お願いするのがすごい。

 

栄華:この2例からわかるのは、パが切れたら即修理するホールもあるし、点けないという選択をするホールもあるということです。わざと消してるなんて言ったら失礼ですよ。さらにもう一つ、聞いていただきたい話があります。このホールについてなんですが。

 

 

栄華:宮崎県にあったホール(※現在は閉業)です。レトロな外観が素敵なので見に行ったんですね。お店にカメラを向けたら店長さんが出てきて「なんで撮ってるんですか」って聞いて来られたんです。「歴史のあるパチンコ店が好きで、こちらのホールの外観に惹かれて来ました」って伝えたら「そうですか、あの看板を撮りに来たわけじゃないんですね」って仰るんです。

 

松村:ほうほう。

 

栄華:赤マルで囲んだところに部品が残ってるのが見えると思うんですけど、これ袖看板の跡なんですね。私が訪ねたときは撤去されてたんですけど、以前はこういう看板があったそうです。

 

2012年のGoogleストリートビューより

 

松村:ずいぶん半濁点が大きい「串刺しパ」があったんですね~!

(※串刺しパ:パの2画目に半濁点が突き刺さって串団子のようなデザインになっているパのこと)

 

栄華:ええ。店長さんが仰った「あの看板」っていうのはこれのことで、「パ」のネオンが切れてたそうなんです。で、ある人が店の前を通りかかってパ切れに気付き、写真を撮ってブログに上げたところ、拡散されていろんな人が撮影しに来たそうです。でも、訪れた人は写真を撮るだけで遊んで行ってくれるようなことはほぼ無かったし、それどころか「客寄せのためにわざと切ってる」みたいな風評を流されて迷惑だったと。店長さんは「わざとネオンを壊すなんて、そんなことすると思いますか?」ってすごく悲しそうな表情で言っておられて印象的でした。あらぬ疑いをかけられた店長さんの無念を晴らすためにも私はこう訴えたいです。

 

 

 

パに限って切れてないし、切れててもわざとじゃない!

 

松村:いや、よく分かりましたよ。この訴えを受けて、大手出版社の記事を書いたライターさんなり、サイトの担当者なり、なんか補足をしてくださるといいんですけどね……。

 

栄華:もし反論があるなら言って下さってもいいですしね。私としては持論を浸透させるべく、事あるごとに訴えて行こうと思ってます。

 

 

前編のおわりに

私はこれまで、「パに限って切れてる説は誤り」という持論を今回だけでなく、トークイベントやCS放送などでも繰り返し主張して来ました。

 

しかしどれだけ訴えたところで大手出版社の影響力には及ばず、現在も「半濁点をグイッと曲げるからなんだよ」と話す人々が絶えません。今回この記事を公開させて頂いたのは、パ切れについてネット検索した方が大手出版社と本記事、双方を見て判断できる日が来たらいいな、と思ったからでもあります。

 

この記事が検索上位に表示される日が来ますように。幾久しく検索され続けますように。そして検索でたどり着いた方たちが本サイトの他の記事も読み、「BBステーション」というパチンコホールの名前を覚えて行って下さいますように……。

 

後編どうぞお楽しみに!

 

 

 


 

<追記>「きしめん様に平べったく加工されているネオン管」について

松村さんがネオン職人さんに確認された結果をこのようにツイートなさっていました。ご本人の許可を得て転載させて頂きます。(2020.10.24)

 

 

 

 

ライター紹介:栄華

パチンコライター。全国2500ヶ所以上のパチンコ店を探訪し写真撮影を行うほか、パチンコ書籍やパチンコ玩具等の蒐集など周辺文化の探究に軸足を置いた活動を行う。パチテレ!「パチってる場合ですよ!」「パチンコロックンロールDX」レギュラー。パチンコ必勝ガイドにて「栄華の旅がたり」連載中。著著「八画文化会館VOL.7 ~I ♡ PACHINKO HALL パチンコホールが大好き!!~」が好評発売中。 偏愛パチンコバンド「テンゴ」で作詞とボーカルを担当。