こんにちは、偏愛パチンコライターの栄華です。
このサイトは、栃木県と東京都でパチンコホール「BBステーション」を経営する株式会社大善の「採用サイト」でございます。
いきなり私ごとですが、自宅にですね、パチンコの歴史に関係した資料がたくさんあります。資料を集めるのが趣味だからです。私はそれらを活用して記事を執筆しておりまして、趣味と実益が一致した生活に充足感と幸せを感じています。
ただ心配なことがひとつあります。
日々増えてゆく資料を眺めながら、私が死んだあと、この資料はゴミになるのかなあと考えてしまうのです。いや、何か引き継ぐための方策を考えなければ確実にゴミになるでしょう。これは「集める趣味」を持っている人にとって共通の悩みかもしれません。
今回は、「信頼できる後進に自分の集めた資料や写真を託して死ぬ」ことを人生最後の目標にしている私が、一方的に敬意とシンパシーを感じてしまう人物をご紹介します。
「岐阜レトロミュージアム」の館長・杉本勇治さんです。
岐阜レトロミュージアムは、岐阜県山県市にあるレジャー施設。
うどんやハンバーガーなどのレトロ自販機や、懐かしいアーケードゲームに触れることができ、2016年のオープン以来、老若男女が絶え間なく訪れる山県市屈指の人気観光スポットになっています。
テレビや雑誌、ウェブメディアからから受けた取材は数知れず。多くの方は昭和テーマパーク的なイメージをお持ちだと思います。
でも、この記事にたどり着いたあなたには知って頂きたいです。岐阜レトロミュージアムの「核」はパチンコであるということを。テレビ取材ではメインとして扱われる自販機やゲーム機は脇役で、パチンココーナーが絶対的な主役なんです。
杉本さんは、レトロ台マニアであれば知らぬ人はいないほど有名なパチンコ台コレクター。設置台はすべて彼の蒐集品です。岐阜レトロミュージアム(略して「岐阜レ」)は、杉本さんの人生を決定づけた1980年代後半~1990年代前半のパチンコ台たちの魅力を伝えるため、昭和~平成初期のホールを再現した体験型ミュージアムなのです。
これまで私は、岐阜レを何度も取材させて頂きました。しかし内容はいずれも杉本館長自身にフォーカスしたものではなく、いつかロングインタビューを企画したいと思い続けていました。
オープン以来、順調に業績を伸ばしてきた岐阜レも、コロナ禍の影響は少なからず受けていると言います。そんな状況下でお会いしても、杉本さんの口からはパチンコの未来に対する希望や、岐阜レの展望がよどみなくあふれ出します。私は今まで彼の言葉に何度も救われてきました。こんな時期だからこそ、岐阜レの今、杉本さんの今を記録に残しておくべきではないかと思いました。
取材させていただいた2021年9月1日現在の岐阜レの設置台を通して、杉本勇治さんの人生とパチンコ観を垣間見るインタビュー、題して「パチンコと人生」。多くの方に杉本さんを知って頂きたいです。
1990年までの旧要件機
栄華(以下栄):本日は杉本さんに、設置台への想いと、それにまつわる人生経験を存分に語って頂きたいです。
杉本さん(以下杉):設置台だけでは語り尽くせないので、今日の取材のためにレア台を1台だけ持ってきました。
栄:えっ、嬉しいです! どの台ですか?
杉:それは追い追い見てもらいましょう。
栄:わかりました! ではカド台からお願いします。
西陣『オリンピック』
(※正式名称は不明につき仮名)
1970年代後半 普通機(手打ち)オール15
センター役物に入った玉がぴょんと跳ねて表彰台へ飛び込むとチューリップが開く。中央穴ならもちろんオールパワー(全チューリップ開放)
海外からの逆輸入モノ!
栄:かわいい台ですね~!
杉:オリンピック記念で導入しました。
栄:時代が写し込まれている台っていいですね。でも1964年の東京オリンピックの時の台ではありませんね。
杉:はい、手打ち台の末期、1970年代の後半でしょうね。
栄:気になるモノを盤面に見つけました。アメリカの輸入業者のステッカー?
杉:ええ、一度海外に出た台だと思います。手打ち台って一時期、ほとんど海外に流れたんですよ。
栄:インテリアとして人気だそうですね。
杉:最近、レア台は海外から買い戻すことも多いです。新しい台も人気なんですよ。『スパイダーマン』とか『アベンジャーズ』とか『スターウォーズ』とか、けっこう高値で取引されてるらしいです。
栄:へー! 国内では海外版権モノって不遇なことが多いのに……。
杉:この台は自分で直接海外から買い戻したわけではなく、誰かに買い戻されたあと国内で流通していたものを購入したんです。
栄:すごい遍歴!
杉:入手してから、設置できる日を心待ちにしてました。こういう時事ネタ系はタイミングが合わないと入れらづらいですので。
栄:お客さんの反応はいかがですか?
杉:残念ながら、全くないですね……。
栄:うう。オリンピックがもっと盛り上がればねえ……。
杉:でも今、設置台で唯一の手打ちなので、好きな人は確実に打ちます。ちなみにこの台が設置されてる場所って、岐阜レのオープン以来、羽根モノ『キングスター』(三共)がずっと設置されてたところなんです。
栄:キングスター、そうでしたね! その座を奪ったのが、盛り上がりに欠ける時事ネタ台……。
杉:まあそういうのもパチンコらしくて良いかなと。不動だと思っていた地位をイケてないヤツに奪われるっていう(笑)
三共『ムーラン2』
1982年ぐらい(電役機)
『ビッグウェーブⅠ』(1988)や『ターゲットⅠ』(1989)といった一発台にも受け継がれた縦型回転体の名機。初代ムーランは鍵型の穴に入るとオールパワーだったが、本機は短穴入賞で大当り。約10秒のあいだ何個入賞しても閉じない電動チューリップが搭載された
自撮り女子にも人気です
杉:今の設置台の中では2番目に古い台ですが、電気仕掛けのギミックがあって、手打ち台よりお客さんに親しんでもらえるんです。仕掛けがないと飽きちゃって長い時間打てないんですね。
栄:それでも若い人たちにはキツそうですが……。
杉:いえ、パチンコに初めて触れるような若い人たちが打ちますよ。カップルや女の子同士が自撮りしながらキャッキャッと楽しそうに。3~4時間打つ人もよくいます。
栄:3~4時間も!? 今のパチンコユーザーの中に、この台に3時間座っていたいという人がどれだけいるでしょうか……。
杉:そうですよね。お金がかかってるならまだしも、ここは景品交換ができないですからね。それってパチンコの魅力を半分ぐらい削っちゃってる事になりますよね。半分どころか、お金の為にパチンコを打ってる人にとっては来る価値すら感じない場所だと思います。でも、景品交換ができないぶん、台自体が持っているゲーム性やギミックの面白さを純粋に味わえます。この台には、初心者の若者を3~4時間座らせるだけのポテンシャルがあるんですよ。面白さという付加価値がちゃんとあれば、景品交換ができなくてもお客さんは打ってくれるんです。
平和『バトルエース』
1982年(権利物)
賞球オール15。センター役物のVゾーン入賞で権利獲得。左右のチャッカー入賞でアタッカーが10秒開放。10ラウンド完走か、ラウンド中に再度Vゾーン入賞で大当り終了
玉に願いを込められるギリギリの速度
杉:リアルタイムでは打っていない台ですけれど、コレクターとして様々な台に触れていくうちにすごい台だと思いました。
栄:そう感じる理由は何でしょう?
杉:まず、盤面と役物の完成度ですね。デザインがいい。盤面に赤で描かれた山のトゲが、役物内にある剣山のようなトゲのイメージとつながっています。
栄:宇宙戦争の攻防を彷彿させます。役物内のトゲは銀河みたい!
杉:宇宙がモチーフの台ですね。 台の奥から打ち手の方に向かって、迫ってくるような迫力を台全体から感じませんか。
栄:確かに、盤面のイラストにもパーツにも遠近法が使われていて。
杉:そう。役物内に入った玉も、奥から手前に向かって転がってきますしね。この転がってくるスピードが絶妙なんです。目で追えるギリギリのところを攻めてる。速すぎるとあっけないし、ゆっくりすぎると当否が簡単に判断できて飽きちゃいますよね。玉の動きをわずかに後追いしながら、「右へ行け、左へ行け」とどうにか願うことができるギリギリのスピードなんです。超名機ですね。
三洋『ぺりかん便』
1990年(羽根物)旧要件機
賞球:7&13
大当り:最大8ラウンド継続、10カウント
フルーツパンチを踏んで廃棄台の山を登った
栄:このペリカンの顔、若いときにホールで見た記憶があるなあ。でもネット上には機種情報があんまり出てきませんね。
杉:はい。ほとんどのコレクターが持ってないレア台です。
栄:そうなんですね!
杉:もう今後は出て来ないんじゃないかと思います。僕も時間をかけてやっと見つけたんですよ。コレクターたちが口をそろえて「ぺりかん便が出ない」「俺もぺりかん便を探してる」って言ってた台で。
栄:どこで手に入れたんですか?
杉:ホールにパチンコ台を納入していた業者の倉庫です、四国地方の。ホールから撤去された台を回収して、廃棄せず倉庫に放り込んでたんです。何十年も、倉庫の天井までうずたかく。6000台ぐらいありました。
栄:6000台!?
杉:あまり保存状態は良くなくて、 ゴミのように扱われている台もありました。 台が山のように積み上がって手が届かない高さになると、横倒しに置いたスロット台で階段を作って、そこに登ってはさらに積む。平置きで投げ捨ててあるような状態でした。この『ぺりかん便』は、その6000台の下敷きになってたんです。
栄:奇跡……!
杉:積み上げてあった台をほぼ全て片づけて、やっと出てきた一層目、業者が取引先のホールから一番最初に回収した台の中に入ってました。
栄: 6000台すべて確認したってことですね……。
杉:はい。岐阜と四国を往復して何か月もかかりました。井桁に組むように積み上げてあったならまだ楽ですが、パチンコもスロットもごちゃまぜで平置きですから、台を踏んで登って作業しなきゃいけないんです。レトロ台コレクターが『フルーツパンチ』(大一)とかを踏むんですよ? どれだけ心が痛かったか……。
栄:その痛みを乗り越えてたどり着いたお宝台なんですね。現役で設置されていた頃はかなり打ち込まれたんですか?
杉:打ちました。パチンコを始めたばかりの若い頃、あまりお金がなかった時代によく打ったので思い入れは深いですね。見つけたときは、神様からの贈り物だと思いました。
三洋「ぺりかん便」 手入れで完走させてみた
栄:今日の取材のために準備してくださった台はぺりかん便だったんですね。
杉:いえ違います。もっとレアな台です。
栄:えっ!
奥村遊機『大和Ⅱ』
1990年(羽根物)旧要件機
賞球:オール11 大当り:最大8ラウンド継続、10カウント
羽根物マニアの「最後の一台」
杉:これは、羽根物を集める人間にとって「最後の一機種」です。
栄:絶対手放さない、ということですか。
杉:そうです。僕はこの博物館をやめる日が訪れて、全ての台を手放したとしてもこの台だけは手元に残します。
栄:杉本さんの一番大切な台……初めて知りました!
杉:究極のレア台です。動いてる姿は今ネット上に存在しないんじゃないでしょうか。この世で持ってるのは僕だけかもしれません。僕が岐阜レに出さない限り、動画が出回ることはありません。
栄:設置しないんですね……。
杉:一度だけ、1周年記念の時に数日間だけ設置しました。でも当時はユーチューバーなんてほとんど居なかったし、この台の価値を知らない一般のお客さんが打つだけでしたね。
栄:ということは、こうして写真が出るだけでもレトロ台マニア界隈騒然なのでは? 動いてるシーンを見たい方も多いでしょうね。
杉:今後、何らかのイベントでお披露目する機会はあると思いますので、岐阜レの今後の動向をチェックしてください。
栄:楽しみにしてます! それにしても、なぜこの台はそんなにレアなんでしょう。生産台数が少なかったんですか?
杉:いえ、決して少なくはなかったです。
栄:じゃあなぜ……?
杉:奥村の台だからです。今ね、羽根物のコレクターズアイテムで値段がつくのは三洋、奥村、マルホンの3社。当時のマイナーメーカーです。
栄:へえ~!
杉:三共、平和、西陣のメジャー3社に比べて普及率が低かったのは確かなんですけど、だからといって数が少なかったわけではないんです。岐阜にも設置されてましたし。
栄:ということは、メジャー3社以外の台は、ちょっと下に見られていた感じですかね?
杉:そうですね。昔は中古台を販売するのは専門の販社がメインでしたし、販社が仕入れて流通させなければ手に入るチャンスはほとんどありませんでした。マイナーメーカーの台は市場に出回ることなく廃棄されて行ったんです。
杉:僕は15~6年ネットオークションをチェックし続けてますけど、『大和Ⅱ』が出たのは2回だけで、どちらも落札してます。1回はセル盤(盤面)のみ。もう1回は、台枠ごと出品されたんですけど、セル盤の劣化がひどい状態でした。
栄:ということはつまり……。
杉:10数年越しでふたつを合体させたのがこの台です。
栄:鳥肌モノ……! そこまで根気強く手に入れたということは、現役で設置されていた時代に忘れられない思い出があったんですね。
杉:僕の青春の塊です。若い頃に友達と一緒に、岐阜駅前のパチンコ店で閉店の清掃のアルバイトをやってたんですけど、その店にたまたま『大和Ⅱ』が設置されてたんですね。ある日ホールの店長に「お前たちパチンコやったことあるのか」って聞かれて、実はバリバリ打ってたんですけどあんまり知らないフリをしたら、「昼間に遊びに来いよ。サービスしたるで」って言ってくれて。
栄:サービス。意味深(笑)
杉:で、昼間に通うようになって「どれでも好きな台選べ」って言われて、よくこの台を選びました。釘が読めたので良い台を選んで、しかもサービスしてもらえるとなれば……毎回終了させてましたね。
栄:初心者のはずなのに!
杉:「さてはこの台かなり打ってるやろ!?」って店長に叱られてサービス終了です(笑)
栄:その後は普通に打ちに行くようになったんですか?
杉:はい。その店でそれなりに人気台でしたが、ある日惜しまれることもなくあっさりと消えてしまいました。当時は羽根物の新台が次から次へと出る時代で、なくなった台にそうこだわることもなかったんですけど『大和Ⅱ』だけは違いました。この台を追いかけて岐阜県内を回って。思えばあれが「旅打ち」の原点でしたね。
栄:きっとコレクターとしての人生の旅路も始まっていたんですね。
杉:この台だけは手放しません。100万円で売ってくれと言われたことがあるけど断りました。
栄:ひゃく……!?
杉:この台と共に死んでゆきます。
ライター紹介:栄華Twitterリンク変更用
パチンコライター。全国2600ヶ所以上のパチンコ店を探訪し写真撮影を行うほか、パチンコ書籍やパチンコ玩具等の蒐集など周辺文化の探究に軸足を置いた活動を行う。パチテレ!「パチってる場合ですよ!」「パチンコロックンロールDX」レギュラー。パチンコ必勝ガイドにて「栄華の旅がたり」連載中。著著「八画文化会館VOL.7 ~I ♡ PACHINKO HALL パチンコホールが大好き!!~」が好評発売中。 偏愛パチンコバンド「テンゴ」で作詞とボーカルを担当。