こんにちは。偏愛パチンコライターの栄華です。
こちらは栃木県と東京都でパチンコホール「BBステーション」を経営する株式会社大善の採用サイトです。
当サイトのテーマは「パチンコ×働く」。
パチンコ業界は今、大きな歴史の転換期。これから先どんな未来が訪れても「パチンコホールとその周辺文化の探究」に人生を捧げようとしている私が「ホール企業で働きたい!」という方々に向けて、どこよりも偏った視点でパチンコ店の魅力や面白さを発信します。
今回のテーマは
パチンコホールの転用
です。
違うお店に生まれ変わること
パチンコ店の数は、1990年代半ばをピークに減り続けています。店舗の大型化で小規模店・個人経営店が減ったことや、規則・法律の変化などが影響しています。ここ10年ほどは遊技人口の減少に加えコロナ禍も追い打ちとなり、ホール閉店のニュースを耳にする機会が多くなりました。
ここで本題です。
閉店したパチンコ店の建物は、どうなってしまうのでしょうか。
多くは解体され、一部は建物の骨格を残したまま別業種・別用途に転用されます。
本稿でいう転用とは「パチンコ店の建物が、別業種・別用途に使用されること」を指します。ちなみに「居抜き」という言葉もよく使われますが、私は個人的に「閉店後、別の経営者によって再びパチンコ店としてオープンした場合」のみを居抜きと呼んで区別しています
まずはこの表をご覧ください。
パチンコ店の「転用例」リストです。すべて「訪ねて自分の目で確認した物件」を掲載しています。記入漏れや、自力で訪ねていない施設も含めると、転用されていない業種を探す方が難しいほどバラエティに富んでいます。
私がパチンコ店の転用について調査し、訪ね歩くのには理由があります。
建物に残るパチンコ店時代の痕跡を発見するためです。
痕跡を全く見つけられないほどガッチリ改装が施される例もありますが、むしろそれは珍しいほうで、たいていは何らかの名残を見つけることできます。
残存濃度が高い物件
残存濃度が高い=パチンコ店時代の痕跡が多い物件のことです。当然ながら、高濃度の物件に遭遇すると欣喜雀躍します!
▲高濃度物件の有名どころといえばこのあたりでしょうか。「要塞みたいな外観」とたびたび話題になった富山県の「ブックオフ山室店」は、2022年8月に閉店(と聞いて7月に再訪)。今後建物がどうなるのか要注目ですね。
▲窒息レベルで濃度の高い転用物件たち。このぐらい遠目で見ると、もうパチンコ店にしか見えませんよね。もし小売店舗等に転用されている物件を見つけた時は、ぜひ入店して内装にもホール時代の残り香を感じて頂きたいところです。
しかし「簡単に中に入れない」または「入りにくい」物件が多いのも確か。そして、入れないからこそ中を見てみたいという気持ちも湧きいづるものです。
たとえば、このような物件。
屋上に立てられた十字架。「CHURCH」の文字。
静岡県浜松市にある、キリスト教(プロテスタント)の教会に転用されたパチンコホールです。
Twitterでバズってました
今年7月、こんなツイートがタイムラインを賑わせていました。
パチンコホール居抜きの教会があった。 pic.twitter.com/P1nI29HvTt
— よごれん (@yogoren) July 7, 2022
呟いたのは「酷道」マニアの第一人者であり「文春オンライン」等に連載を持つライターでもある鹿取茂雄(よごれん)さん。
1.7万いいね。かなりバズってます。実は私はよごれんさんと懇意にさせていただており「すごい影響力だ!」と感嘆しながら眺めておりました。するとほどなく、私のTwitterにある方からダイレクトメッセージが届いたのです。
最近、私たちのシティーチャーチがバズっていると聞いて。
探していたら、栄華さんのツイートを見つけました。
なんと、教会の関係者さんからのご連絡でした。
そうなのです。バズりこそしませんでしたが、私も2020年にこの教会のことを呟いていました。私のツイートのほうが説明が詳細だったので、検索に引っ掛かりやすかったんですね。
パチンコ店の建物を転用したキリスト教会。右側にリサイクル業者さんの看板が見えますが、ここはパチンコ店の駐車場でした。フェンスにホール時代の掲示物が残っています。#懐パチ探訪 pic.twitter.com/OXi7AHj6HD
— 栄華 (@henaieika) January 8, 2020
話題になることで教会にご迷惑が掛かっていないかと心配していましたが、どうやらむしろ歓迎して下さっている様子。
このご縁がきっかけで、建物の中を取材させていただくことになりました。
「ハママツ」という名のホール
この建物がパチンコ店だった頃のお話をします。
▲Googleのストリートビューより2012年の画像。「パチンコハママツ」という店名でした。現在と見た目はほぼ変わりませんね。
娯楽産業協会の『全国遊技場名鑑』によると、ハママツの創業時期は1980年前後。設置台数は多い頃で約275台。最盛期は浜松市内に「ニューハママツ」「サンハママツ」という系列店もありました。
私は一度だけですが、このホールを訪れたことがあります。2011年2月でした。その時の印象は「クセが強い!」。建物のクセではなく、掲示物のクセです。
▲屋外にあった立て看板。挑発的なセリフを吐くアグネス・ラムさんです。パチンコに明るくない方のために一応説明すると「店休日の翌日は釘を激甘にしますよ」と言っています。しかも機種の示唆までしていますね(おそらく2010年発売の『CR新海物語Withアグネス・ラム』シリーズ)。
▲さらには、トイレの貼り紙。「当店は命釘(デジパチのスタートチャッカー上の2本釘)を毎日めっちゃアケてますよ」ということです。
アグネスにしてもマンモスにしても、今こんな掲示物を出したら営業停止になってしまいます。撮影した2011年2月当時はまだ「広告・宣伝規制」が実施されておらず、こういう表現が黙認されていたんですね。
実際にけっこう命釘がアイていた記憶があります。また、時々ここで遊んだという方からは「甘い台を夫婦で打って大勝した」といったお話も聞いています。なかなか遊べるお店だったようですが、2013年に閉店しました。
いよいよ建物の中へ!
曇り空の土曜日。午後4時すぎ。
青々とした水田の向こうに佇むパチンコ店……ではなくキリスト教会。
この曜日、この時間に訪れたのには理由があります。週に一度の「礼拝」が行われるのです。
「音が……」
けっこう離れた場所なのに、建物からうっすらと「礼拝の音」が漏れ聞こえます。きっとパチンコ店だった頃も、こんな風に店内の喧騒が周囲に響いていたのでしょう。
敷地に入ると、教会の方が出迎えて下さり、建物の中に案内されました。まずは礼拝を見学させていただきます。
え?
礼拝?
礼拝!?
ポピュラーミュージックの生演奏が行われ、みなさんノリノリです!
でも、歌詞は確かにキリスト教の教えを唄っているようです。
こんな礼拝が、元パチンコホールの中で行われているなんて!
しばし圧倒されたのち、だんだん周囲の内装に目を向けられるようになってきました。よく見たらこのステージは、景品カウンターがあった場所です。
▲被せ物がしてある天井部分。カウンター上にはレトロな照明があったはずですが、改装が加えられたようです。
▲床にはカーペットが敷かれており、島設備の跡などを見ることはできません。でも天井はホール時代のまま完全に残されています。
ライブの後は、牧師さんのお話。牧師というと裁判官のような黒い服を着て、首にマフラーみたいな長い布を垂らしてる人、というイメージでしたが、ここではDJが始まってもおかしくない雰囲気です。
どうしてホールが教会に?
礼拝のあと、牧師さんにお話をうかがいました。
栄華(以下栄):こういう礼拝があるんですね! 驚きました。
榊山さん(以下S):日本では、厳かに讃美歌を歌うイメージを抱いている人が多いですよね。でも海外のプロテスタントの教会ではゴスペルや、ポップス要素の強いクリスチャンミュージックがよく演奏されているんです。
栄:この建物を教会にすることになった経緯をお聞きしたいです。
S:ここができる前は、浜松駅近くのレンタルスペースを礼拝のたびに借りていました。しかしそれだと、毎回音響機材などを運び込み、セッティングして片付けなければならないのが大変なので、2014年に物件探しをすることになったんです。すると、すぐにここが見つかりました。柱のない一間の空間が礼拝にうってつけですし、元パチンコ店だけに防音設備もしっかりしてます。立地条件も良くて、これだけ音を出しても全く苦情が来ません。
栄:周囲にほとんど民家がありませんもんね。
S:他の地域から訪れた牧師の先生たちも、この広さや条件の良さを見て「今後もパチンコ店の建物を活用するのはいいかもしれないね」と話しています。
栄:でも、教会としてオープンさせるまでには色々ご苦労もあったんじゃないでしょうか。パチンコ店特有の設備も色々と残っていたでしょうし。
S:そうですね。教会に携わっている人たちの中にいろいろな知識や技術を持っている方たちがいて、力を合わせて設備の解体などもやりました。
栄:元パチンコ店ということで、ほかの皆さんから不満が出るようなことはことはなかったですか。
S:教派によっては受け入れない場合もあるかもしれませんが、ここでは全く問題ありませんでした。教会は単なる建物ではなく共同体です。そこに人が集い、キリストの愛があるという考え方なので、建物が以前何であったかよりも中身が大切なんです。
パチンコホールの痕跡
さあ。建物について理解が深まったところで本日のメインイベント。パチンコ店の残り香を堪能しましょう。
▲正面出入口
▲風除室の天井はアーチ型。1980年代の郊外型ホールによく見られた「広々としたエントランスホール」を引き立てる導入部です。
▲風除室の照明。丸い部分が白く光ります。ひとつひとつが電球のように見えますが、中に直管型の蛍光灯が配されていて、その光が漏れる仕組み。同じ照明が景品カウンターの上にもありました。
▲エントランスホールの天井はお約束の鏡張り。 周囲の壁などが映り込み、高さや奥行きを感じさせます。
余談ですが「鏡張り天井はゴト行為の監視のため」という説をよく聞きます。ホール関係者の中にもそうおっしゃる方がいますが、パチンコ店の設計やデザインを生業にされていた方から「それは副産物で、もともとは広さを演出するため」というお話も聞いています。それを裏付けるようにこのホールでも、鏡張りなのはエントランスホールだけで、遊技スペースは反射も光沢もない天井でした。
▲メインの自動ドアを入って右側、カフェスペースとして使用されている空間です。壁と天井のデザインがとてもユニーク。1980年代、エントランスホールの照明には華美な物も多く見られましたが、この店はダウンライトだけを用いていたようです(ホール時代に改装された可能性もあり)。
▲エントランスホールの左側。教会の方々が施した愛らしい装飾の奥にアーチ型の出入口が。これ、何だと思います?
▲そう、トイレです。中の写真はお見せしませんが、パチンコ店の頃そのままでした。転用物件において、トイレは改装を免れやすい場所のひとつ。とても見応えがあります。
▲床も要チェックポイント。礼拝の写真を見ると分かる通り、遊技スペースの床にはカーペットが敷かれていました。この写真はエントランスホールの床。四角いマットが敷き詰められていますが……
▲めくるとこの通り、ホール時代の床が顔を出します。
取材をしているうちに日が暮れました。こうなるとパチンコ店時代の電飾が気になります。
▲点灯を試みて下さいました(劣化したネオン管は漏洩放電によって火災を起こす危険性もあるため慎重に安全確認をしながら)。青・赤・白のネオン管が配されていましたが、点いたのは白のみ。もしかすると、これが見納めかもしれません。
▲建物の西側出入口の上にもネオンが。十字架とパチ屋の電飾による奇跡の共同作業です。
そしてもう1つ、とっておきの残存アイテムがあります。
今一度、パチンコハママツが営業していた2012年のストリートビューをご覧ください。
▼この部分です。
現在は教会の看板が設置されていますが、なんと、外された看板が別な場所で使われているというのです。
▲浜松市北区にある「ライブチャーチ寸座」。こちらは元リゾートホテルを転用した教会です。
▲たしかにあの看板の文字が活用されています! 場所は離れているものの、これで外装のパーツはほぼ完全に保存されていることになり、感慨深いものがあります。とても大切にされて、幸せな建物です。
取材を終えて
転用物件を追いかけていて、ふと思うことがあります。
「もし、このホールを経営していた人が私を見たら複雑な気持ちになるのだろうな」と。
転用されるということは、経営難などの事情があってホールを閉店せざるを得なかったわけで、その建物を見てキャッキャと喜ばれてもいい気分はしないでしょう。
でも、打ち手の立場から考えるとどうでしょう。愛着を抱いて通ったホール。そこで紡いだ思い出は、ホールが閉店しても消え去ることはありません。打ち手にとって「閉店」は失敗体験ではなく、愛着が凍結される経験なのだと私は思います。
思い出のあの店はどうなっただろう? と跡地を訪ね、見る影もないほど変わり果てていたときの寂しさ。愛着は行き場を失います。でも、転用されていたとしても、建物が残っていたら……?
ホールで味わった喜怒哀楽、訪れるたびに増えていったエピソード。柱のキズ、床の汚れなどにも思い出は染み付いています。それらを発見することでほんの少しですが、愛着を解凍したかのような気持ちになれるのです。
礼拝の場は神と共に生きる人々の「喜び」にあふれ、私の目には建物が一緒に喜んでいるように見えました。
ライター紹介:栄華Twitterリンク変更用
パチンコライター。全国2800ヶ所以上のパチンコ店を探訪し写真撮影を行うほか、パチンコ書籍やパチンコ玩具等の蒐集など周辺文化の探究に軸足を置いた活動を行う。パチンコ必勝ガイドにて「栄華の旅がたり」連載中。著著「八画文化会館VOL.7 ~I ♡ PACHINKO HALL パチンコホールが大好き!!~」が好評発売中。 偏愛パチンコバンド「テンゴ」で作詞とボーカルを担当。