こんにちは。偏愛パチンコライターの栄華です。
前回記事は多数お読み頂き、ありがとうございました。このサイトは、栃木県と東京都でパチンコホール「BBステーション」を経営する株式会社大善さんの「採用サイト」でございます。読み物には「パチンコ×はたらく」というテーマがあるんですが、私の書くものはちょっと逸脱しすぎではないかと自省しておりまして、このままだと誰からも怒られないのをよいことにますます踏み外してしまいそうなので、気をひきしめて少々原点回帰したいと思います。ということで今回のテーマは、
「パチンコ」のネオンはなぜ赤いのか です。
自省って何? 原点回帰ってどういう意味か分かってんのこの人。
そう思われた方は引き続き読み進めて頂きたく存じます。
まず前提を共有しましょう
「パチンコ」というカタカナ表記のネオンサインは赤色が多い。
と言われて「ああ確かに」と思われる方はいらっしゃいますでしょうか。
私は、パチンコホールの建物を鑑賞・観察する「ホール探訪」というライフワークをすでに10年以上継続しておりますが、「赤いネオンが多いなあ」と探訪を開始した当初から実感しておりました。
根拠もなく「実感」と言われても納得して頂けないと思いますので、私が独自に集めたデータをご覧頂きましょう。訪ね歩いた47都道府県、約2500軒のパチンコホールで撮影したカタカナ表記の「パチンコ」というネオンサインの写真609点から、ネオンサインの色に着目して集計してみました。
都市部の大型店や新しいホールでは、“ PACHINKO & SLOT”といったアルファベット表記が多用されるのに加え、ネオンではなくLEDの看板を設置する店が増えているため、「カタカナ表記のネオンサイン」を見つけること自体が難しくなっています。しかし私はネオンサインが残る古めのパチンコ店を選んで訪ね歩いてきたため、多くの観察個数を得ることができたと思います。
「赤以外の単色、または不明」について少し説明します。「赤以外の単色」は白と緑が多く、少数ですが黄色や青も見られました。「不明」にはネオンを点けない店や、ネオン管の一部が破損で消失している店、廃業店のものも含まれているので、点灯例が少ないことを申し添えておきます。点灯していない状態でも色が判別できるもの(次項で解説)は集計に加えましたが、「不明」の中に赤が含まれている可能性もあり、実際は609軒中半数以上が赤いネオンなのではないかと考えています。
また「多色」は下の写真のように、1文字ごとに色を変えたり、1文字を複数の色で表現した例のことです。
専門家に話を聞きました
お待たせしました。ここでようやく「パチンコ×はたらく」というテーマが垣間見えて参ります。パチンコ店のネオン制作を多数手がけている企業の代表取締役、Aさんにお話を伺ったのです。創業60年以上の老舗で、ホテルなどの外装も手がけておられますが、メインで施工してきたのは60年以上一貫してパチンコホールです。東海地方の業者さんですが、「社名の公表や顔出しNGで良ければ」という条件で取材させて頂くことができました。
ここからはAさんからのお話と、私の集めたデータ、さらに文献を参照しながら「パチンコ」のネオンサインが赤い理由を説明してゆきたいと思います。
「パチンコ」が赤い理由①:ネオンサインはそもそも赤いから
多くの方がご存知かと思いますが、ネオンサインの「ネオン」とは、ネオンガスという気体のことです。これを真空状態のガラス管に封入し電圧をかけると、放電によりガスの分子がぶつかり合ってエネルギーが生まれ、発光する仕組みになっています。
ネオン管には次の3種類の管(かん)があります。
◆蛍光管
家庭用の蛍光灯みたいに白いガラス管で、内側に発色するパウダーが吹き付けてあります。通電していない時はすべて白色に見えるので、消灯時は何色に光るのかわかりません。
◆着色管
ガラス管に色がつけてあるので、通電していなくても色が分かります。
◆透明管
透明なガラス管なので、封入されたガスそのものの色が出ます。ネオンガスだと赤色に光り、アルゴンガスだと青色に光ります。つまり、シンプルな「ネオン管」はもともと赤いのです。
「パチンコ」が赤い理由②: 赤いネオンはよく目立つから
透明管のネオンは赤か青と決まっています。
だから壊れたネオンや廃業店のネオンでも色が特定できるのです。確率は2分1ではありません。「透明管はほぼすべて赤」と言ってよいと思います。なぜなら、私はアルゴンガスの透明管をパチンコ店で見たことがないからです。おそらく青は目立たないからだと思います。
下の表は社団法人全日本ネオン協会が2000年に出版した「ネオンサインの知識と実務」という本に掲載された、色彩の心理的効果を調査したデータです。
「SD法(セマンティック・ディファレンシャル法)」という方法で、色を見た時の印象を主観評価したものです。ここでは赤色と青色のデータのみ抜き出しています。赤色は数値の高低差が激しく、良くも悪くも色彩感情を強く揺さぶることが分かります。一方青色はどの項目も中央値あたりでブレが少なく、無難で訴求力は薄めなことが窺えます。
「パチンコ」が赤い理由③:経営者が赤いネオンを好んだから
これについてはAさんから貴重な証言が得られました。
栄華(以下栄):どうして「パチンコ」のネオンって赤色が多いんでしょうね。
Aさん(以下A):赤が好きだったからですよ。昔の創業者の方は特にね、赤にしとけば目立つだろうと、そういうノリです。
栄:視覚的効果とか心理面への影響といった根拠があってのことではなく?
A:そう。「俺が好きだから」みたいな感じです。この業界はオーナーの意向が全てなんで、俺が赤って言ったら赤なんだっていう、そういう方が多かったですね。
栄:他業種と比較しても多かったでしょうか?
A:たぶんパチンコは他の業種より赤色を多用したと思います。そういえばみんな口を揃えて赤って言ってたなあと思い出しました。「そんなもん赤しかないだろ」みたいな。「とにかく目立てばいい」って、発想がそれだけだったですよ。
結論
今回は「パチンコ」というカタカナネオンに赤色が多い理由に迫ってみました。ホール探訪を始めてからの約10年間、書籍や資料を集めて赤が多い理由を自分なりに考察してきましたが、結論としては「パチンコ店のオーナーが赤いネオンを好んだから」というのがシンプルにして最強の理由であり、「なぜ彼らが赤を好んだのか」の背景に理由①や②のような要因があるものと思われます。
近年、「パチンコ」の赤いネオンは減少傾向にあります。戦後から市場規模がピークとなる1990年代半ばに向かう過程で、数多くのホールが華美なネオンや奇抜なデザインの建物で「目立つこと」を優先した店舗を作りました。赤い「パチンコ」のネオンは、その象徴のような存在と言えるでしょう。しかしそれは「迫力がある」「気になる」「目立つ」といった印象と同時に、「不快な」「派手な」「不調和な」「騒がしい」「うわついた」といった、色彩が持つマイナスの感情を植え付けることにもなりました。
Aさんによると、ネオンを加工できる職人の数、メンテナンスをできる業者の数は年々減っているそうです。おそらく、今後は赤い「パチンコ」のネオンサインを新しく作ることはないでしょう、と言っておられました。私はパチンコが好きです。パチンコがどんなに嫌われても好きです。だから近い将来消えてしまうであろう嫌われ者の赤い光を、最後のひとつまで「ああやっぱり目立つね」と味わいながら見届けたいと思っています。
〈参考文献〉
「ネオンサインの知識と実務」 社団法人全日本ネオン協会編 オーム社 2000年
「デザインの色彩計画」 大智 浩 美術出版社 1962年
「まちの文字図鑑 ヨキカナカタカナ」 松村大輔 大福書林 2018年
「ネオンとLEDの比較共同研究Ⅰ・Ⅱ」 社団法人日本ネオン協会 特定非営利法人LED照明推進委員会 2008年・2009年
「色彩情報による印象の変化」井上正之・井上誠喜 1998年
「進出色・後退色研究の新たな展開:軸上色収差説を修正して復活させる」北岡 明佳他 2006年
ライター紹介:栄華Twitterリンク変更用
パチンコライター。全国2500ヶ所以上のパチンコ店を探訪し写真撮影を行うほか、パチンコ書籍やパチンコ玩具等の蒐集など周辺文化の探究に軸足を置いた活動を行う。パチテレ!「パチってる場合ですよ!」「パチンコロックンロールDX」レギュラー。パチンコ必勝ガイドにて「栄華の旅がたり」連載中。著著「八画文化会館VOL.7 ~I ♡ PACHINKO HALL パチンコホールが大好き!!~」が好評発売中。 偏愛パチンコバンド「テンゴ」で作詞とボーカルを担当。