パチンコのパの話をしよう ~後編~
パチンコの「パ」らしさって何?

パチンコの「パ」の話をしよう~後編~

こんにちは。偏愛パチンコライターの栄華です。

このサイトは、栃木県と東京都でパチンコホール「BBステーション」を経営する株式会社大善の「採用サイト」でございます。

 

前回記事は多数お読み頂き、まことにありがとうございました。

皆様の「パ切れネオン」に対する関心の高さがうかがえます。

 

記事の公開後、私のTwitterアカウントには貴重な目撃証言や、「パ切れ看板はレア説」を後押しして下さるようなメッセージがたくさん寄せられました。大手出版社のアクションは未だありませんが、コツコツと持論を唱え続けようと思います。

 

今回は後編。引き続き、9月にYouTubeにて配信された松村大輔さん主催のトーク企画「文字の話をしよう」のダイジェストをお届けします。パチンコにとって最も重要な文字である「パ」。今回はその魅力をさらに掘り下げます。

 

登場人物は前編同様、こちらの2名です。

 

<話す人>

松村大輔(のどか)さん

ブックデザイナー。著書に「まちの文字図鑑 よきかなひらがな」「ヨキカナカタカナ」(大福書林)。1990年代からのパチンコユーザー。好きだった台は「バレリーナ」(平和・1991年)、「たぬ吉くん2」(京楽・1992年)、「CR新世紀エヴァンゲリオンSF」(ビスティ・2004年)、「CR中森明菜・歌姫伝説」(Daiichi・2006年)など。

栄華(わたし)

パチンコと、パチンコ店の建物に偏愛を捧げるフリーライター。今の気分で打ちたい名機は『ファクトリー』(平和・1988年)、『CR笑点』(平和・2003年)、『CRウッチャンナンチャンGL』(西陣・2005年)。今年リリースのベスト機種は先月暫定だった『PAスーパー海物語IN地中海SBA』(三洋)に決定。

(※ウェブサイトに掲載するにあたり、意図がより伝わるよう配信時と言い回しを変えたり、内容を割愛するなど再編集しております)

 

 

パチンコの「パ」らしさとは?

栄華:パチンコ店にとって「パ」がいかに大事かをわかっていただけたところで、 本格的にパについて考えてみたいと思います。

 

松村さん(以下松村): そうですね。

 

栄華:まずはこちらをご覧ください。

 

 

栄華:これは私が監修した『八画文化会館vol.7~ I love Pachinko hall パチンコホールが大好き!』のP36~37です。実はこのページで松村さんとは、パチンコ店の看板の文字について座談会をさせて頂いたんですよね。面白かったですね。

 

松村:面白かった~。

 

栄華:その時に話したことで、誌面で取り上げられなかったことがひとつあって、今日はその話をしてみたいと思います。

 

 

栄華:この写真を見ながら、こんな話をしました。JRの駅で見かけたポスターなんですけど、「パス」という文字に2種類の書体があって、右上のパ(青文字)にはパチンコっぽさを感じないけど、その下のパ(黄文字)は見ただけで「ざわっ」とする、みたいな。覚えてます?

 

松村:忘れてました。ごめんなさい。

 

栄華:誌面に載らなかったですからね。で、新たな気持ちでこの文字を見てどうですか?

 

松村:上はスマートな書体で、パチンコ店のものには見えづらいというか。

 

栄華:シュッとしてオシャレな感じというかね。

 

松村:ええ。一方、下はパチンコに付いててもおかしくないような極太の書体で。栄華さんがザワつくのはわかります。

 

栄華:なぜ黄色い文字の方を「パチンコ店らしい」と感じてしまうのか。「パチンコのパらしさ」ってなんだろうってことを考えてみたんです。そこでひとつ訴えたいのが…、

 

 

栄華:これです、「身体性」。「パ」の文字は、パチンコ店へ向かわんとする遊技者の体(と心)である、という持論です。しかしこれが、誰に話してもだいたい伝わらなくてポカーンとされちゃう。

 

松村:どういうことですか?

 

栄華:例えば、「ハ」という文字は人間の両足に見立てられます。そして半濁点は目や頭部です。文字のパーツが体のパーツに置き換え可能だから「身体性」という言葉を使ってるんですけど、これを他人に話すと「え……じゃあ鼻はどこにあるの? 胴体は? 手は?」みたいな反応が来るんです。でも、そういうことじゃなくて。「パチンコを打ちに行こう」と決めた遊技者がパを見たときに、ハが足のように見えたその瞬間、または半濁点が目のように見えたその瞬間、自分自身をパの文字に投影している、ってことが言いたいんです。自分とパが同化する。

 

松村:……すばらしい

 

栄華:どこが鼻で口で手で……と文字の形に身体を当てはめるって話じゃなくて、もっと観念的と言えばいいのかな。

 

松村:(気持ちが文字に向かって)飛んでいくんですね。

 

栄華:そうですね。そういったことがあるんじゃないかと。それをふまえてこれを見てください。

 

 

 

 

栄華:フリーフォントの「パ」を集めてみました。この中で、パチンコ店でよく見られる特徴を有してるのが③のタイプで、他とは明らかに違う点があります。半濁点の位置が、①②④はハの2画目の外側、離れた位置にありますよね。③は2画目にひっついているか、上に乗っかってるんです。

 

松村:ほんとだ。これはよく気付きましたね!

 

栄華:パチンコ店の看板を見ていると、③のタイプのパが圧倒的に多いんです。こういう形のパが多い業種って他にもありますか? 例えばパーマ屋さんはどうでしょう。

 

松村:パーマ屋さんはね……また独特の作法があるんですよね。前回触れた「串刺しパ」もパーマ屋さんに多いし、あとはデコラティブトゲがある「薔薇文字」のような書体が使われてたり。明朝体があったり。様々ですね。

 

様々なパーマ屋さんの看板(写真提供:八画文化会館)

 

栄華:なるほど、極端な偏りはないんですね。それから、④も2画目の外側に半濁点があるものを集めたんですけど、この中にパチンコ店で意外と見られる形のパがありまして、それは④-dなんです。

 

 

松村:1画目2画目の間が狭い!?

 

栄華:はい。そして半濁点は外側にあります。④-dに近い形ですね。これとちょっと似てるんですが、もっと多いのがこちらの形です。

 

 

松村:半濁点乗っかり型!!

 

栄華:そうです。ハは④-dと同じく1画目と2画目の間が狭いんですが、半濁点が2画目の上に乗っかるわけです。この形が圧倒的に多いんですよ。なぜこういうデザインのパが多くなるのか? 実際のところは個々のサインを作った職人さんに尋ねないと分からないんですが、ここ10年、パチンコのパを見続けてきた私の印象としては、半濁点がハに近い方が求心的というのかな。意志の強さみたいなものが感じられたり、より生き物っぽさが増して愛嬌も感じられたり、文字にキャラクター性・人格のようなものを感じます。……松村さんは、どうですか。

 

松村:うーん。ゴシック体線が太いから、 自ずと密度が高くなって1画目と2画目の間が狭くなるっていう、物理的な事情があるのかなと思うんですが。

 

栄華:それは私も考えました。そもそも「ハ」って外に向かって広がるような形をしていて、さらにその外に半濁点をつけると面積が大きくなってしまいますもんね。他の文字とのバランスを取るためにこういう形にしてるんじゃないか、ってことですよね。

 

松村:そうですね。

 

栄華:でも、こういうのもけっこうあるんですよ。

 

 

栄華:パがやたら大きいんです。

 

 

栄華:少なくとも他の文字と大きさを揃えよう、とは考えてないですよね。

 

松村:なるほど。こういうのを見ると、1文字目のアテンションというか、矢印のような役割を感じますね。それを「身体性」という言葉で表現するなら確かにそうなのかもしれない。

 

 

 

個性的なパを味わう

栄華:ここからは、様々な「パ」を鑑賞しましょう。まずは、五本の指に入るぐらい好きな看板です。

 

 

栄華:これ、「パ」が残りの3文字を引っ張ってる感じがしませんか。「ほら、行こうよ!」って連れて行こうとしてる。

 

松村:「パ」がリーダーだなんなら半濁点が一番意志を持ってるかのように見える。

 

栄華:意志を感じますよね!

 

松村:っていうか、これ何本ネオン管使ってんだ(笑)

 

栄華:半濁点だけでかなり使ってますね~。

 

松村:こういう看板って普通下から見上げるから、パースがついて上に行くほど小さく見えるものじゃないですか。でもこの看板は、それをあざ笑うかのごとく、上に向かって広がるように見せてるんですよね。計算の上でのことなのかな。迫力があるいい看板ですね

 

栄華:寸評ありがとうございます。次も大好きなネオン看板です。

 

 

栄華:さきほど、半濁点を目や頭に見立てるって話をしましたけど、それ以前に「パチンコ玉」を想起させるものでもあるんですよね。

 

松村:そうですね。忘れてました。

 

栄華:でもこの看板の場合は、頭でも目玉でも銀玉でもないんです。玉が入賞する穴、「賞球口」です。そして「チ」の1画目が玉の軌道を表しているという、すごくデザイン性が高い看板ですね。

 

松村:そうやって読み解くのか。ごめんなさい、シモの方を考えちゃった。

 

栄華:あ~そうか! それは全く考えなかった……でも、確かにそれと掛けていたのかもしれません。

 

松村:わかんないけど(笑)

 

栄華:次に行きましょう。

 

 

松村:この半濁点は確実に目玉だ。

 

栄華:でしょ?

 

松村:もう、人格を持ってますね。

 

栄華:よかった、感じてもらえた。これも見て下さい。

 

 

栄華:私はセミ(蝉)型って呼んでるんですけど、木にとまってるセミを背中から見たイメージ。

 

松村:これもカワイイですね。

 

栄華:パタパタと飛んでいきそうですよね。続いてこちら。

 

 

松村:これ気になりますね、1画目の左側への飛び出しが。

 

 

栄華:今回パの字を改めて見直したら、ここまで極端ではないんですけど飛び出しが見られる例が他にもあったんですよ。どうしてこうなるんでしょうね?

 

松村:実は、僕もこのタイプの「パ」を見たことがあります

 

 

松村:埼玉の秩父にある「パリー」っていう食堂の暖簾の写真なんですけど、やっぱり飛び出してる。かなりの老舗(※1927年創業)で、おそらく暖簾も古い時代から受け継がれているものだと思うんですけど、昔はこういう作法があった可能性がありますね。

 

 

~追記「飛び出し」について~

 

配信の時は触れることができませんでしたが、当日ご覧になっていた視聴者さんから、<飛び出しはからの派生では>という内容のチャットを頂きました。見慣れない字ですがれっきとした漢字で「ハツ」と読みます。

 

「字通」(白川静著 平凡社 1996年)によると、「両足のならぶ形」という会意から生まれた文字だそうで、「両足をそろえて出発しようとする意。発進の意である」と記されていました。

 

カタカナの「ハ」は、漢数字の「八」から生まれたものですが、パチンコのパが「ホールに向かって駆け出してゆかんとする足」だと仮定すると、「八」より「癶」の方がふさわしいと言えます。飛び出しのあるハをデザインした看板職人さんは、文字に「身体性」を吹き込んでいたのかもしれません。

 

 

 

崩壊した文字

栄華:表情豊かなパを色々と見ていただいたところで、一転してこちらをご覧ください。

 

 

栄華:ゴシック体みたいなフォントっぽい文字です。デザイン性に乏しいと、いかに味気ないかがよく分かって頂けると思います。「もっと煽って!」という気持ちになりますね。

 

松村:マジメ感が出るんですよね。看板屋さんの怠惰だとか、依頼主さんのセンスの無さとまでは言わないんだけど、こうなっちゃうと街がつまらなくなりますよね。

 

栄華:ええ、本当にそう思います。ではお口直しにこちらを。

 

 

松村:これは「ル」になりたがってますね(笑)

 

栄華:そうなんですよ。「ハ」がなぜか「ル」化するんですよね。その極めつけが、以前お見せしたことがあると思いますが、この看板です。

 

 

松村:これは何回見てもすごい

 

栄華:愛知県のパチンコ店です。

(※配信では「もうこの看板は無いと思います」と言ってしまいましたが、どうやらまだありそうです)

 

松村:看板を2面捉えてるこの写真もステキで、パのデザインが全然違うんですよね。配色もオシャレだし。

 

栄華:半濁点が飛び出してますね。

 

松村:そう、はみ出してまでこれやる? って。ほんと素晴らしいな。

 

栄華:こういう崩壊した文字っていうのは、ユーザーがパチンコに求めてる「予測不能なスリリングな展開」のメタファーのようなものかもしれないし、遊技のワクワク感も想起させてると思います。このワクワク感のことを以前松村さんは「はしゃぎ」という言葉を使って表現されていて、とてもしっくり来る良い表現だと思いました。

 

 

まとめ

 

 

栄華:近年、パチンコ店の看板は「PACHINKO&SLOT」といったアルファベット表記が大半になりました。だから今回紹介したようなカタカナ表記の看板は新しく作られる機会がどんどん減ってるんです。カタカナ看板が華やかなりし頃にパチンコ店の建築に関わった業者さんや一級建築士さんにお話を聞くと、パチンコ店のオーナーさんは「とにかく目立つよう、よその店がまだやっていないことを」と要求したそうです。

 

松村:ああ、いい話だ。

 

栄華:現在、パチンコ店を作るには周辺の景観に馴染むことが必須で、近隣住民への説明会も行われるそうですが、昔はそういうことをあまり考えずに目立つことを第一に考えることができたそうです。新しい建築資材やパーツにしても、発売されたばかりの頃は耐久性等も含めて商品の良し悪しが定まってないから、先陣を切って使うのをためらうのが普通だそうですが、パチンコ店の場合はそんなことを全く考えずに新しいものをジャンジャン使えたそうです。お金のことを気にせず、目立つものを作ることができた。リッチな受注環境ですよね。

 

松村:確かに。

 

栄華:著名なデザイナーではなく、市井の名もなき看板職人さんたちがオーナーからの要望に応えようと懸命に想像力を膨らませて、やりたい放題やった。その創意が凝縮されているんですね。そこがパチンコ店の看板の面白さだと思います。

 

松村:すばらしいです今後、パチンコ店の看板の見方変わりそうです。

 

栄華:妄想に偏った部分もありましたが、こうしてお話する機会を与えて下さってありがとうございました!

 

<対談おわり>

 

動画もご覧ください

冒頭でも述べました通り、この記事はYouTubeで配信した「文字の話をしよう」というトーク企画をもとに作成されました。元動画はこちらです。

 

 

 

実を言いますと、記事にできたのは全体の半分ぐらいでして、他にも「レトロなパチンコ店の掲示物」「パチンコメーカーの古いロゴ」などについて写真資料を見ながら話しております。

 

また、今後もこのトーク企画は継続予定とのことなので、ぜひ 松村さんのチャンネル を登録してお待ちください。

 

松村さんからこんなリクエストを頂きました。いつか機会があれば、「パチンコ台で使用されている文字」の話や、「パチンコ攻略誌の表紙デザインの変遷」についてなど対談してみたいと。実現できた暁には、また皆さんに情報をシェアできたらいいなと思います。

 

  

 

ライター紹介:栄華

パチンコライター。全国2500ヶ所以上のパチンコ店を探訪し写真撮影を行うほか、パチンコ書籍やパチンコ玩具等の蒐集など周辺文化の探究に軸足を置いた活動を行う。パチテレ!「パチってる場合ですよ!」「パチンコロックンロールDX」レギュラー。パチンコ必勝ガイドにて「栄華の旅がたり」連載中。著著「八画文化会館VOL.7 ~I ♡ PACHINKO HALL パチンコホールが大好き!!~」が好評発売中。 偏愛パチンコバンド「テンゴ」で作詞とボーカルを担当。